| ………… | |
| スレイ、アリーシャのこと考えているのか? | |
| ああ。大丈夫だって信じてるけど、マルトランさんの最後の言葉が…… | |
| 『反吐が出るほど嫌いだった』か | |
| うん。あれはきつかっただろうなって | |
| 十年以上も信じてきた師匠の言葉だものな…… | |
| 女の言葉をそのまま受け止めるなよ。青年たち | |
| 別の意味があるっていうのか? | |
| さあて。千年生きても女心は謎だ | |
| けど、打算だけの関係を続けるには、十年は長すぎる | |
| マルトランにはアリーシャへの愛情もあったと? | |
| 憎しみも愛の形のひとつさ。本人がどう感じていたかはわからないがな | |
| そうかもしれないが…… | |
| 難しいんだな | |
| 難しいってわかるのが第一歩だ | |
| なんにせよ、心配しすぎなくていいと思うぜ。女は強い。男が思うよりずっとな |
| マルトランは、アリーシャにふたつ利用価値があったって言ってたけど | |
| あとひとつは何だったんだろう? | |
| それは、おそらく…… | |
| 災禍の顕主の目的から考えると―― | |
| スレイを穢れさせる道具にすること、か | |
| 多分殺すことでね。避けられたけど | |
| だとしたら、なんていう…… | |
| ………… | |
| 案外、アリーシャに手取り足取り武術をしこむのが、快感だった〜とかじゃね? | |
| 最低だな、ザビーダ | |
| あなたが死ねばいいのに | |
| 次の無言は、拒絶の無言ですわよ? | |
| ちょ!? 空気を和まそうとしただけなのに! |
| ライラ……天族だったんだよな? あのドラゴンも | |
| はい……強い力を持った方だったはずです | |
| おそらくかの者が捕らえ、閉じ込めたのでしょう。戦場の穢れが集まる場所に | |
| 生贄として、か | |
| ………… | |
| スレイさん。戦場は世界の縮図といえるでしょう。あらゆる感情が渦巻いています | |
| 恐怖や憎しみだね。ドラゴンを生むほどの | |
| それだけではありません。ドラゴンに立ち向かう勇気もありました | |
| それはスレイさんが呼び起こしたものですわ | |
| ……絶望するわけにはいかないよな。そんなオレが | |
| 信じよう。セルゲイたちを……人の世界を | |
| はい | |
| 信じますわ。私たちもスレイさんを |
| あっさり断ったなー。せっかくのデートのお誘いなのに | |
| 導師ってモテないよね、絶対 | |
| ま、仕方ないね | |
| スレイさんですし | |
| ね | |
| はは! どうやらそのようだな |
| あちゃ〜……嫌なもの見つけちゃった | |
| ですね | |
| 落とし物が? | |
| ええと、それは…… | |
| スレイ。周りを見ての感想は? | |
| ここは、スライム憑魔の巣って感じ―― | |
| あっ! | |
| そう。食べられちまったんだよ。持ち主は | |
| ……けど、なんで荷物だけ無事なんだ? | |
| きっとグルメなのよ | |
| あながち間違いではありませんわね。スライム憑魔はエゴと貪欲さの塊ですから | |
| ………… | |
| 他人の心配してる場合じゃないぜ。俺たちも巣の中にいるんだ | |
| 気がついたら胃袋の中ってこともありえるぜ | |
| わかった。気は抜かない | |
| ザビーダは食べやすそうだよね。吐き出すものが少ないし | |
| そうそう、よく言われるんだ | |
| 『食わせ者だ』ってな |
| 変だな。この辺りに野生の馬なんていなかったはずだけど | |
| そうなのですか? | |
| うん。セキレイの羽で何度も通ったけど見たことない | |
| 軍馬だった馬じゃないの? | |
| そっか! きっと軍とはぐれたんだ | |
| 無責任だな、まったく! | |
| どちらの国の馬なのでしょう? | |
| さあね。案外両方の国だったりして | |
| はぐれた同士で仲良くやってるってこと? | |
| 不思議じゃないでしょ。馬に戦う理由はないんだから | |
| 馬も戦争の被害者なんですよね…… | |
| 正確には被害馬ね | |
| いいよね? あのままにしておいても | |
| いいでしょ。戦場の穢れも消えたし。きっとうまく生きていくわよ | |
| ウマだけに、ですね | |
| 強引に拾わなくていいわよ! |
| すっげー! | |
| でっかいネコジャラシだ! | |
| ここまで大きいと周りの『ネコジャラシ』が『嫉妬』してしまいますわよね! | |
| ネコジャラシが嫉妬? | |
| ですです! 巨大モサモサ感に『妬けちゃう』というか…… | |
| ライラ? | |
| ネコジャラシが『ヤキモチ』を焼くわけですよ。つまり…… | |
| はいはい、ネコジェラシー! ネコジェラシー! | |
| これで満足? | |
| はい! ありがとうございます! | |
| こんなのが主神だなんて…… | |
| ジェラシー? | |
| じゃかしー! | |
| むしろ『ライラじゃらし』だな。これは | |
| 言わずにはいられないんだね |
| 心配ないよな。アリーシャたちは | |
| 大丈夫。セルゲイもルーカスもいる | |
| 目的地はイズチだな | |
| ああ。マオテラスがいるカムランへ続く道があるはずだ | |
| なんて言う? ジイジには | |
| ……話さないで行こう | |
| スレイ! | |
| 必要ないだろ。また会えるんだから | |
| ……そうだな。わかった |
| ……不思議ちゃん、不安みたいね | |
| スレイさんの成長が予想以上だったのでしょう | |
| ああ。この後どんな手を使っても、スレイは全部はね除けるかもってびびってる | |
| ですが……彼女が見出した唯一の策まで、スレイさんがはね除けられるか…… | |
| 正直私も不安ですわ | |
| なぁに。させなきゃいい。それだけだろ? | |
| はい! | |
| ……あの子はこんな想い知らなくていい | |
| あの子が覚悟してたとしても | |
| エドナさん…… | |
| ……さすがにマジモードだな。エドナちゃん | |
| あなたも珍しくマジモードが長いじゃない | |
| 良い事ですわ! ザビーダさんはずっとマジモでお願いします | |
| お、ライラが言うならそれもありか? 惚れちゃうぜ? いや、もう結婚する? | |
| ライラのバカ。放っとけばマジモのままだったのに | |
| ごめんなさい…… |
| これ……おっかない顔の像だよね | |
| 多分、マビノギオ遺跡の祭神だと思う。名前はわからないけど―― | |
| これはゼンライ様ですわ | |
| えっ!? | |
| これがジイジ!? | |
| かつて、ゼンライ様は厳しさと加護を併せもつ雷神として、人々の尊崇を集めていたと聞いています | |
| そうか。僕たちが遊び場にしていたのは…… | |
| ジイジの神殿だったんだな |
| ここは……大地の記憶で見た…… | |
| ミケルさんの家だ | |
| ………… | |
| ミューズさんも一緒に住んでたんだよな? | |
| ああ。つまり人間の赤ん坊だった僕も暮らしていたんだろうね | |
| ミクリオの故郷なんだよな。カムランは | |
| スレイにとってもだろ? | |
| そう……なんだよな。実感ないけど | |
| 歴史的事実だね。僕たちの | |
| けど、オレの故郷はイズチだ | |
| ああ。もちろん僕も同じだ | |
| そしてこれからも | |
| 言うまでもないさ | |
| ………… |
| この石碑は新しいな | |
| なんか書いてある…… | |
| 『この村から始めよう』 | |
| ! | |
| カムラン開拓の記念碑か | |
| 導師をやめたミケルさんは、なにを始めるつもりだったんだろうな | |
| 普通の生活……家族との暮らし…… | |
| 穢れのない世界への第一歩という意味かもしれない | |
| 始まりの村カムラン――『災厄の時代が始まった』って意味じゃなかったんだな | |
| 希望がこもった名前だったんだね | |
| ミケル様…… | |
| 取り戻そう、ライラ。希望の名前を | |
| 災厄の時代を終わらせて | |
| はい |
| マオテラスの紋章か | |
| いや……ちょっと違くないか? これ…… | |
| これはカノヌシ様の紋章ですわ | |
| カノヌシ……? どんな天族? | |
| かなり古い伝承だけに出てくる謎の天族だな | |
| 一応五大神だ。マオテラスの前のな | |
| マオテラスの先代!? 五大神って入れ替わるものなのか? | |
| 流行廃りはなんにだってあるわ | |
| 現に、今はマオテラス信仰だけが盛んじゃない。他の四神をおしのけて | |
| そういうもの……かもな | |
| つまり、ここはカノヌシの神殿だったのか | |
| かもしれないな…… | |
| 行こう | |
| ああ | |
| ……スイッチ、無理矢理切っちゃったね | |
| ライラ、あの二人の―― | |
| ………… | |
| ………… | |
| あれ? | |
| 行くわよ | |
| あ、うん。行くよ、二人とも | |
| ああ | |
| はい |
| スレイ、儀礼剣があるぞ | |
| ああ。やっぱりここは、導師と関係がある場所なんだな | |
| 以前は大勢の導師がいたんだよな。せめて何人か残ってくれていれば…… | |
| そうだよなぁ | |
| けど、そういう歴史の先に生きてるんだ。オレもミクリオも、みんな | |
| わかってるさ。今この瞬間が歴史であることもね | |
| はは、未来のオレたちにガッカリされないようにしないとな | |
| 僕みたいな厳しいのもいるからね | |
| そういうこと! |
| サイモンってなんか憐れ。業とかいうのにホント苦しんだんだね | |
| ヘルの野郎に仕えることで、やっと自分の存在意義を感じられるぐらい、な | |
| あんなすごい力を持ってるのに、自分を信じられなかったんだ | |
| あの力ならいつでもあたしらを殺せたのに、そうしなかったのもヘルダルフの指示だったのかな | |
| それもあるかもしれないが……殺せなかったんじゃないだろうか | |
| あれは普通じゃ考えられない。特別な力に感じた | |
| そうか、誓約だな | |
| ……で、誓約は『殺めない』ってワケね | |
| 人、天族、憑魔なんでもござれだが殺せない。意味があるようで意味がない、か | |
| ですが、先ほどは本気だったと思いますわ | |
| 誓約を侵して、力を失っても……ひげネコの思惑にすら反してでもね | |
| はい。この穢れの中で、力を存分に発揮出来なかったのが幸いしたのでしょう | |
| そこまでしてオレを…… |
| おっそろしい量の穢れだな。スレイがいなけりゃドラゴンになってるぜ | |
| マオテラスが発しているのか……マオテラスに流れ込んでいるのか…… | |
| とにかく、この穢れがマオテラスを憑魔にしている原因なんだ | |
| 穢れの中心は村の奥のようね。おそらくそこに…… | |
| ヘルダルフとマオテラスがいる | |
| 行こう! | |
| この中で生き残っている憑魔は普通ではないはずです。十分に注意してください | |
| ああ! みんなもね | |
| 大丈夫! 導師一行だって並じゃないから |
| っとに何ここ! | |
| すごいところだよ | |
| 何もかもが非常識すぎる | |
| 膨大すぎる穢れが、こんな異常な光景を生んでいるんでしょう | |
| この世ならざる景色ってところか | |
| こんな感じなんだ。あの世って? | |
| あの世を見たことある人がそう言ってるしね | |
| 見たらちゃんと教えてやるって、嬢ちゃんたち。それもすぐかもしれねぇぜ? | |
| ふふふ、大丈夫ですわね。冗談が言えるのなら | |
| ホント、いつもの調子だよね | |
| あなた達も人のこと言えないと思うわ | |
| どうよ? こういうの? | |
| 頼もしい限りだ | |
| ああ。本当に |
| なんだろう? なんかの実……かな? | |
| それにしても変わったものだね。見たことあるか、ロゼ? | |
| う〜ん……ないなあ。旅でも商品でも | |
| もしかして海の向こうから流れ着いた? | |
| 海の向こう!? | |
| そこに、こんな実をつける樹が生えた場所があるって? | |
| すごいこと考えるな | |
| 不思議じゃないだろ? 事実、見たこともない実がある | |
| それに、こんな妙な場所だってあったんだ | |
| うん。不思議じゃないね | |
| 海の向こうか……ロマンだね | |
| ああ、行ってみたいな。いつか |
| ミクリオ、どういう意味だと思う? | |
| 王が剣を渡していた。状況から見て、軍の出陣式だね | |
| 受け取った男は、きっと将軍だ | |
| 軍装からするとローランスですね。いつ頃のものかは、わかりませんが | |
| まさに英雄って感じだったな | |
| けど、どういう意味があるんだろう? 歴史的にはよくある場面だと思うけど | |
| 続きを見ることができれば、わかるんじゃないでしょうか? | |
| あるのかな? 続きも | |
| わからないけど探してみよう。隠された歴史だとしたらワクワクするしな |
| 天遺見聞録を書いた人は村長……? 新しい村をつくってるみたいだったけど | |
| ミクリオ。思ったんだけど、もしかしてあの人、導師だったりしないかな? | |
| 導師が天遺見聞録を書いたとしたら、色々納得が―― | |
| ………… | |
| ミクリオ? | |
| あ……すまない。なんだって? | |
| いや……めずらしいな。ミクリオがボーっとするなんて | |
| 略してミボーですわね! | |
| 上手い | |
| 上手くない | |
| 大丈夫か? どっか悪いんじゃ…… | |
| 平気だよ。ちょっとボンヤリしただけ | |
| なぜかね…… |