| 村の将来のために学校をつくる。なかなか賢明な判断だね | |
| 学校か……通ってみたかったよな | |
| うん。あたしも | |
| ロゼも? | |
| ずっと旅暮らしだったからね。風の骨のみんなが先生代わりだったんだ | |
| ロッシュなんて、ああ見えてすごい達筆だし、ブンガクにも詳しいんだよ | |
| へえ | |
| エギーユも色々なことを知ってそうだ | |
| うん。格闘術や忍び込みの仕方を教えてくれた。ま、体育の先生だね | |
| 物騒な体育だ…… | |
| オレとミクリオも同じ。イズチのみんなが先生だったんだ | |
| 思い出すな。ジイジの礼儀作法の授業が厳しくてね | |
| おかげでミクリオがこんな感じになったわけ | |
| あはは。スレイはあんまり覚えなかったんだ | |
| そうでもないけど…… | |
| そうだろ。天遺見聞録ばかり読んでて困った | |
| ミクリオも似たようなもんだろ!? | |
| 僕は歴史と古代語の勉強を兼ねてだよ | |
| オレだってそうだ | |
| 要するに、今と同じってことね | |
| まあね。だから寂しいことはなかったけど | |
| もっと大勢と勉強したり遊んだりしたかったなって | |
| ……わかるな。その気持ち |
| 秘密の抜け道って、ロマンだよなあ | |
| 地下というのが、さらにね | |
| そうそう! たくさん出口があったりすると最高! | |
| 滝の裏とか井戸の中に繋がってるんだよね | |
| やっぱ、わかってるなー! ミクリオ! | |
| ぜんっぜんわかんない | |
| わかりたくないし | |
| 男性はお好きなんですよ。こういうの | |
| てか、『男性は』っていうより…… | |
| 『ガキは』ね |
| この辺り……ずいぶん荒れた土地だな | |
| だね。辺境なのはイズチも同じだけど、ここは狩猟も農耕も難しそうだ | |
| こんなところにも人が住んでるんだな | |
| 案外しぶといわよね。人間って | |
| なにか特産物があるのかもしれない | |
| そうかもな | |
| ………… | |
| とにかく目的はゴドジンだ | |
| ロゼ、この道を進めばいいんだな? | |
| あ、うん。崖道の端にあるはずだよ。もうすぐだと思う | |
| わかった。また襲われる前に急ごう |
| ここ、何かを掘った跡っぽいな? | |
| この赤い石じゃない? | |
| 赤精鉱ね | |
| セキセイコウ……? | |
| 珍しい鉱物ですわ。地の栄養素が結晶したもので薬になるんですが…… | |
| 本で読んだことがある。毒性も含むから扱いが難しいんだっけ | |
| あっ! | |
| そうか! これが偽エリクシールの材料なんだな |
| ゴドジンに来て、教皇様――村長さんが慕われる理由がわかったな | |
| ああ。人間くさいんだね。弱さを含めて | |
| 弱くても……あんな償い方もできるんだな | |
| なんて、オレの選択がホントに正しかったのか、自信ないけど | |
| そういう迷いを含めてスレイさんなのです | |
| 少なくとも私たちは、そんなあなたについていきますわ | |
| 面倒だけど | |
| とりあえずよかったんじゃないか? ロゼも暗殺しないでくれたし | |
| それはね。まだ迷ってるみたいだけど | |
| スレイさんと同じように、ですわ | |
| このままロゼが殺さない道を選んでくれると嬉しいんだけど | |
| そうですわね | |
| 殺さない道……か |
| しっかし、ここが試練の神殿なんてすごい偶然だよね? | |
| 私は納得。あちこちに赤精鉱があったから | |
| そうか。赤精鉱は強力な火の天響術が発動した後に生成される鉱物だものな | |
| 強力って、ライラの術みたいな? | |
| いいえ。私程度の炎では赤精鉱はつくれませんわ | |
| つまり、ライラ以上の術を使う奴がいるかもってことか…… |
| こんなに巨大な赤精鉱があるなんて…… | |
| やばいわね | |
| どういうことだ? | |
| 赤精鉱はね、強力な火の天響術の影響で生成される鉱物なの | |
| 手強い敵がいるってことか。上等だ | |
| 油断してると火傷じゃすまないかもよ | |
| はい。少なくとも私程度の炎では赤精鉱は生まれません | |
| ……どれ程だと? | |
| 火山の爆発レベルです | |
| ! | |
| ふん。試練の神殿と名乗るだけのことはありそうだな | |
| 熱いわね | |
| 頼もしいですわ。退くわけにはいきませんから |
| ペンドラゴ、今頃どうなってるかな? | |
| ……あまり時間をかけていると、セルゲイたちも動かざるを得なくなるかもしれない | |
| フォートンが罠を仕掛ける余地も広がる | |
| やなこと言うなあ | |
| 事実を言ったまでだ | |
| 残念ながらね | |
| うん | |
| 放置して状況が良くなるものでもない | |
| 間違いなくな |
| 村長さん、この文章全部暗記してたんだよね。よくやるなあ…… | |
| 『導師に四つの秘力あり。すなわち地水火風。其は災禍の顕主に対する剣なり』 | |
| 村長さんが言ったヤツ! 覚えてるの!? | |
| 大体だけど | |
| 案外得意だよな。そういうのは | |
| ごめん、スレイ! ちょっと尊敬 | |
| え? なんで謝られた? | |
| しかし、結局導師の秘力ってなんなんだろう? | |
| 自然は地水火風の四つで構成されています。そして、それを司る最古の天族たちがいる | |
| ウマシア、アメノチ、ムスヒ、ハヤヒノだね | |
| はい。グリンウッド大陸のあらゆるバランスは彼らによって支えられているのです | |
| そこまでいくと、もう神様だよね。実感ないけど | |
| それは僕たちも同じだ | |
| 天響術の源も彼らのはずだが、意識することはないものな | |
| 五大神とは、そういうレベルの存在なのですわ | |
| おそらく秘力とは、彼らの加護を得て、地水火風の力をより強く発現させるものなのでしょう | |
| 災禍の顕主に対抗するために……か | |
| すごい力だけど、戦いのためなのは残念だね |
| マオテラスの紋章だよな? これは | |
| 天遺見聞録が正しければね | |
| けど、ここは空っぽだ | |
| ああ。気配も領域も感じない | |
| といっても、五大神の気配がどんなかなんて、わからないけど | |
| そもそもマオテラスって謎の天族だよな | |
| 秘力だって地水火風があるのに、マオテラスのはないし | |
| 五大神信仰の象徴的存在と思っていたが、裏があるのかもな | |
| ライラはなにか知っていそうだが…… | |
| 聞かない方がいいよな | |
| かわいそうだ。いろいろな意味で | |
| それにしても……ライラ、いつああいうネタを考えてるんだろうな? | |
| それも謎だね。マオテラス以上に |
| スレイ、一個いい? | |
| うん? | |
| 教皇に会って思ったんだけど、戦争の手続きを進めたのは、フォートン枢機卿だと思う | |
| あの村長に開戦の決断は無理だろうしね | |
| それって、ロゼは枢機卿を…… | |
| スレイは浄化したいんだよね? 枢機卿のこと | |
| ああ | |
| 憑魔になっちゃったけど、あの人の責任感は本物だって信じたい | |
| だから浄化すれば救えるかもしれない | |
| そう思ってる | |
| わかった、やってみよう。あたしもフォローするからさ | |
| ロゼ…… | |
| なにも言うなって。そういうことだから |
| 領域が消えて、はっきりわかった。やっぱり、ここにはマオテラスはいない | |
| 上から読んでも『ライライライラ』、下から読んでも『ライライライラ』 | |
| おい、今はそんなことどうでも―― | |
| よくない。私たちは、五大神でもない憑魔を鎮められなかった | |
| あのひげネコにも勝てないってことだもの | |
| ヘルダルフ……まだ遠いな | |
| そう思うならしっかりして | |
| まだまだこれからですわ | |
| まだ試練の神殿は三つも残ってるし | |
| くじけるのもまだ早い、よな | |
| マオテラスでもヤツでもなかったか…… | |
| だが、近くに気配を感じる。ヤツはまだローランスの中枢にいるはずだ |
| なんとか水の試練も突破したな | |
| けど。あれってアウトルの後始末をさせられただけだったんじゃない? | |
| そういう言い方はどうなんだ? | |
| ミボ。本心を言いなさい | |
| まあ……釈然としない気持ちはあるよ | |
| でしょう | |
| あれは……導師の最悪の結末を伝えて下さったのだと思います | |
| オレもそう思った | |
| ふうん。じゃあ、アシュラが憑魔化しなかったら、どうするつもりだったのかしらね? | |
| その時は……別の憑魔で試されたはずです | |
| 他にもいるってことか? 憑魔になった導師が | |
| 長い歴史の中では、大勢 | |
| わかった。だから心の試練が大事なんだな | |
| はい | |
| そういうことなら納得だ | |
| エドナもいいよな? | |
| ワタシはいいのよ。公平な試練であればなんでもね | |
| ずるいぞ | |
| ははは! 強いなあ、エドナの心は |
| キノコ! 食べられるかな? | |
| 手前のは大丈夫だ。奥のはやめておけ | |
| 了解ー | |
| よくわかるな。デゼル | |
| 常識だ | |
| この森ってさ。自然が生き生きしてる気がする | |
| ああ。ジイジの加護領域のおかげなんだろうな | |
| さっきから感じてるコレが、ジイジの領域だよね? | |
| かなりの力だな。高位天族でもここまでの者は、そうはいない | |
| そりゃあ、ジイジだからね。怪しい奴が入ると雷で追い返すんだ | |
| 雷を操るんだ | |
| そう! すっごいのをね | |
| スレイもよく落とされたものさ | |
| それはカミナリ違いだろ!? | |
| なるほど。それでキノコが | |
| え? | |
| あたしもわかった! 雷が落ちるとキノコがよく生えるっていうよね | |
| そうか。この森のキノコはスレイのおかげか | |
| ちょっ!? だからカミナリ違いだってば! |
| む……この形は、まさか幻の……! | |
| どうしたんだ、デゼル? | |
| なんでもない。騒ぐな | |
| あっ! なんだそのクワガタ! | |
| 静かにしろ! こいつがどういうヤツかわかってるのか!? | |
| どういうヤツ? | |
| アロダイトイカズチオオクワガタだ | |
| 珍しいのか? | |
| 激レアだ。カブトムシは一年で死んでしまうが、クワガタは越冬が可能で三年ほど生きる | |
| 中でもこいつは寒さに強い種類。雪に包まれても凍ることなく、十数年生きた記録も残っている | |
| 百年ほど前に絶滅したとされ、俺も噂でしか聞いたことがなかった | |
| すっげー! 幻のクワガタじゃないか | |
| わかったなら静かにしろ | |
| 逃げちゃうもんな | |
| ……とっくに逃げているが。デゼルが騒いだせいで | |
| なにいっ! | |
| 案外アホね |
| この罠は動かないね。壊れてる | |
| ザマないわね。目玉め | |
| ちょっと一息ですね | |
| 動いてる方が奇跡なんだよ。アヴァロストの調律時代のものなんだから | |
| 出た、専門用語。解説プリーズ | |
| えっとね。『アヴァロストの調律』は、天族の文明が最も栄えた時代なんだ | |
| 天響術を使った建物や品物がたくさんつくられた時代と伝わっています | |
| 要するに不思議時代ね。すっごい昔なんでしょ? | |
| うん。多分エドナの年より―― | |
| スレイ! | |
| あ痛っ! | |
| 『神代の時代』に続く時代のはずなのですが、実は、よくわからないのです | |
| 『クローズド・ダーク』という暗黒時代があったせいで | |
| でも、試練の神殿にはこんな天族にしかつくれないものが残ってる | |
| アヴァロストの調律時代の貴重な証拠だ | |
| スレイにとってはお宝なんだね。こんなやっかいな目玉も | |
| ああ。自分の目で確かめたときにこそ、伝承の本当の意味が見える、だからね | |
| 今の顔、メーヴィンおじさんにそっくり | |
| はい。ロマンを追う男の顔ですわ | |
| いい年したガキの顔とも言うわね |
| スレイ、このチョウの名前わかる? | |
| うーん。見たことないチョウだけど | |
| こういう時は…… | |
| デゼルー! | |
| なんだ | |
| このチョウってどういうの? | |
| 俺は図鑑じゃない | |
| そういわずに教えてよ。デゼル先生ー | |
| ちっ、そんなおだてはいらん | |
| やけにこだわるな | |
| だって…… | |
| チョウはコレクターに高く売れるんだよ。標本で | |
| 標本!? | |
| 名前わかんないけど、念のためとっつかまえて標本にしておくかー | |
| 待て! | |
| そいつは『ゼロバゲニゼ』。チョウに見えるが実はガだ | |
| ガかー。じゃあ売れないね | |
| 残念だったな | |
| ゼロバゲニゼ……? | |
| あ | |
| 黙ってろ、スレイ | |
| わかった。これはガだ |
| きれいだね。なんて花だろ? | |
| へえ、ロゼもこういうの興味あるのか | |
| 赤い花は好きなんだ。あたしだって女子だし | |
| ランの一種かな? | |
| そう。『エドナ』っていう種類よ | |
| 同じ名前 | |
| 名前だけじゃないわ | |
| エドナは暑さに弱く、風通しの良い日陰に咲く。人の手で育てる場合には水のやり過ぎに要注意 | |
| 繊細で可憐なところもワタシとそっくりでしょう? | |
| ふむ、ということは…… | |
| なにしてるの? ミボ | |
| いや。トゲか毒があるんじゃないかと | |
| トゲならここにあるわよ | |
| 痛っ! エドナ、本気すぎだって! | |
| 無粋よね。だからミボなのよ | |
| それにしても詳しいんだね | |
| ……教えてくれたのよ。お兄ちゃんが | |
| そうなんだ | |
| 悪かったな。茶化して | |
| いいわよ。別に |
| どうなってるんだ……これ!? | |
| でっかい石だよねぇ! | |
| いや、そこじゃないって | |
| もしかして……石じゃなくて岩とか? | |
| ええっとね…… | |
| どうやってこの石を遺跡の中に入れたのか、だろう? | |
| そう。入口より明らかに大きい。もちろん運び込んだ意味も謎だけど―― | |
| ふん。大昔にも、お前のような物好きがいたんだろう | |
| 運び込んだんじゃなくてさ。元々あった石の周りに遺跡をつくったんじゃないの? | |
| それだ! きっとここは、この石を祀る神殿なんだ! | |
| この石は……器だったのかもしれんな | |
| 自分の目で確かめたときにこそ、伝承の本当の意味が見える…… | |
| あ。それ、メーヴィンおじさんと話してた | |
| そう。でもただ見るだけじゃダメってわかったよ | |
| ありがとう、ロゼ | |
| なぜお礼? | |
| 常識にとらわれない自由な視点が必要ということだ。お前のような | |
| ん〜? 別にあたしは普通ですけど? | |
| ふっ……まったくこいつは…… |
| むむ……なんでこんなとこに木馬が? | |
| 小さいね。子ども用かな? | |
| 元々子どもの玩具でしょ | |
| だからなんで玩具が試練の神殿に? | |
| 知らないわよ。でも試練に関わりがあるとは思えないけど? | |
| けど、なんか気になるんだよ | |
| なにかのヒントかも? 木馬……馬……馬車…… | |
| 人参……馬刺し……バフンウニ……グンカン巻き……イクラ丼…… | |
| あ。違う連想になっちゃった | |
| 可能性があるとしたら、そうやって時間を無駄にさせるための罠ね |