それにしても検問の時の芝居。よく思いついたよな | |
うん。特にライラが本気だったね | |
実は、ずっとああいうお芝居に憧れていて。一度やってみたかったんですの | |
それにしたって急にセリフが出てくるのはすごいよ | |
経験値が違うのよ。人間とは | |
そっか。天族って見た目通りの年じゃないんだっけ | |
……ライラって本当は何歳なの? | |
そういえばオレも知らないや | |
俺より年上な気もする…… | |
それは非公開です! | |
こういう時のアドリブはきかないのね |
本当に対立してるんだな。ローランスの騎士団と教会って | |
人を守るための組織だろうに | |
人が集まれば、どうしても集団の意識が芽生えてしまいます | |
それが組織の力となる場合もありますが、強い穢れを生み、衝突を起こすことの方が多いのです | |
戦争とかだね | |
最大のものはそう。教会と騎士団の対立も、小さな戦争といえるでしょう | |
『戦争、すなわち人の歴史である』。本に書いてあったことを実感するよ | |
……オレは関わらない方がいいのかな? | |
スレイさんはどう思いますか? | |
オレは知りたい | |
ひどい現実だとしても、それも世界のひとつだと思うから | |
でしたら参りましょう。スレイさんの旅なのですから | |
オレとオレを信じてくれるみんなの旅、だよ |
ロゼさん、少しは私たちに馴染んでくれたでしょうか? | |
大分慣れたんじゃないかな。怖がりだけど、さっぱりしたヤツだし | |
いや、案外根が深いのかもしれないぞ | |
ロゼの恐怖感は、あんなに強い霊応力を打ち消すほどのものだったんだから | |
誰かさんのせいで | |
お前たちに言い訳する気はない | |
そんなロゼが自分の意思でつきあってくれてるんだ。大丈夫だよ、きっと | |
そう信じたいよ。ロゼみたいな人間の仲間は、なかなか見つかるものじゃないだろうし | |
いろいろなイミで、ね | |
そう、いろいろなイミで | |
ふふふ | |
どうしたの? | |
いえ、私たちも少しロゼさんに慣れたんだなって | |
そうだね | |
………… | |
うわっ! またスレイが見えないライラたちと喋ってる! | |
こ、こわ〜〜〜っ! | |
先は長いかもだけど…… | |
あせらず行きましょう、スレイさん |
ミクリオ、壊れたとこで素材がわかるぞ! | |
ふむ……一見普通の材質だが、それだと、ここまで傾斜して原型を保てるはずがない | |
天響術が使われてた? | |
ああ。だとすると、これは神代の時代に近い遺跡ってことになる | |
やっぱりか! | |
なんなん? 二人とも興奮しちゃって | |
ずっと見たかった塔なんだ | |
この斜塔は、天遺見聞録に特筆されているからね | |
すげえよな! 思ってたより全然でかい! | |
しかも、これほど見事に残っているとは | |
憧れなの? こんな斜めってる塔が | |
それが問題なんだ! どうしてこうなったか? | |
普通に考えれば地殻変動だろうね | |
けど、周りに断層の跡はないぞ | |
じゃあ、地盤沈下? 洪水の影響も考えられるか…… | |
元から斜めに建てられた可能性は? | |
否定はしないが、一体なんのために? | |
結局それだよな。問題は。宗教施設、墓、日時計…… | |
大がかりな天響術の仕掛けだったのかも……? | |
ロゼ! ロゼはどう思う? | |
へっ? | |
えっと…… | |
話長い | |
………… | |
あれ。固まっちゃった |
モコモコのヤギさんですわね | |
略してモギね | |
こいつもヤギなのか。イズチにいるのとは大分違うなあ | |
紙、食べるでしょうか? | |
やめろ。人工のものを与えるべきじゃない | |
すみません。そうですよね | |
優しいのね。動物には | |
お前たちが雑なだけだ | |
そういうことにしておくわ | |
デゼル。このヤギは崖で暮らす種類なのか? | |
そうだ。普段は崖の上で生活し、草を食う時だけ草原に降りてくる | |
眠るのも崖の上でだ | |
崖の上で……大変だな | |
落ち着けないでしょうに | |
端から見ればな。だが、案外気楽なのかもしれん | |
そうか。少なくとも襲われる心配はないしな | |
なにを幸せと感じるかは他人にはわからない……ということでしょうか | |
そういうことだ | |
もしかして実感こもってる? | |
ふん。好きに解釈しろ |
あ! 見て見て! | |
ウサギがいる! | |
グリンウッドノウサギだな | |
おいしそうだな! | |
おいしそう〜! | |
なっ!? | |
どうかした? | |
そこは……カワイイじゃないのか? | |
ああ。かわいい上に美味しいんだ | |
知らないの? ウサギって高級食材なんだよ | |
食用でもあるのは事実だが…… | |
デゼルも食べてみればわかるって | |
よし。オレが捕まえてさばいてやるよ | |
遠慮する! | |
心配しなくても一番美味しいトコあげるって | |
いや! 天族に食事は必要ない | |
そう? そんなに言うなら…… | |
じゃあ、乾して保存食にしようか | |
賛成ー! | |
ぼさっとしてんじゃねえっ! | |
あ……逃げちゃった | |
ちょっと、デゼルー! 追い立てるなんてかわいそうでしょ? | |
き、基準がわからん…… |
鍬が……忘れ物かな? | |
なってないね。大切な仕事道具だろうに | |
でも、麦畑は見事ですわ | |
ああ。災厄の時代といっても、まだまだ豊かなところは残ってるんだな | |
一見ね | |
一見? | |
麦をよく見てみろ | |
ん……? | |
これは! | |
実が全然入ってない! | |
こっちも! モミの中はカビだけだ | |
コガネカビだ。この一帯は全滅だろうな | |
全滅…… | |
最近広がりまくってるの。この分じゃ、今年の収穫も期待できないなぁ…… | |
……鍬を放り出すわけだ | |
ライラ、これも……? | |
災禍の顕主が生み出した結果のひとつでしょうね | |
これが……災厄の時代か |
ハイランド牛発見! 美味しそう〜! | |
肩ロースからサーロインへのラインがいいわね。A5ランク | |
確かにいい牛だが、そのリアクションはどうなんだ? | |
ハイランド牛の美味しさを知らないからそう言えるんだって | |
とろけるんだよ。マジで! | |
ハイランド牛? ローランスなのに? | |
また、そういうトコに食いつく | |
原産地がハイランド地方なんでしょ | |
しかし、ハイランドでは見かけなかったが…… | |
家畜として大量に飼うには広大な牧草地が必要だ | |
それが確保しやすいローランスの方が、飼育に適しているんだろう | |
なるほど。論理的だ | |
もっとも、災厄の世が続けば、牧草地ごとこいつらも死に絶えるということだがな | |
……それも道理だな | |
ちなみに! | |
ハイランド牛を使ったドラゴ鍋は『ハイランドを食う』って意味で縁起物になってるんだって! | |
う、うん……? | |
Cランクの豆知識ね | |
なんだよー! 場を和まそうとしたのに! |
この棺、どんな人が入ってたんだろうな | |
装飾から見て、それなりの身分の人だろう。貴族とか、一族の長とか | |
確かに! これは、なかなかいい石を使ってますからねえ | |
ローランス帝国が成立する前かな? 時代的には | |
微妙なところだな。もしかするとローランスの始祖と関係があるかも | |
ふむう……この手触りからして、『スベスベひんやり様式』と見た! | |
盗掘されてるのが残念だな | |
僕たちも、故人の誇りを尊重して調査しないとね | |
ゴホゴホ! 結構ホコリが溜まってる! つまり『掃除が行き届いていない説』が有力だと! | |
ええっと、ロゼ…… | |
さっきから何やってんの? | |
いやあ、一回スレイたちの趣味に混ざってみようと思ったんだけど―― | |
ごめん。案外つまんない | |
……だろうね | |
無理しないで | |
うん。それが良さそう |
立派な噴水ですわねえ | |
ペンドラゴ名物のひとつだよ | |
詳しくは知らないけど、地下水道で遠くから水を引いてるんだって | |
そうなんですか | |
無駄に水が噴き出すものを、わざわざつくるなんて | |
やっぱり人間ってバカよね | |
天響術も使わずに高度な技術だと思いますけど | |
無駄。無意味。徒労 | |
別名『憤怒の噴水』って言うんだ | |
憤怒の? なぜそんな名前を? | |
なんか水道の調子が悪いらしくてさ。時々…… | |
ひゃあああっ!? | |
………… | |
こうなるから | |
なるほど | |
人間バカすぎっ! |
ラストンベルにも地の主はいなかったね | |
天族は何人か見かけたけど、共存って感じじゃなかったよな…… | |
でもさ、見えないけど本当はいたんだね。今までもああだったって思うと…… | |
コワ〜! | |
ちっ…… | |
それでも昔の人は天族に敬意を払っていたんだよ | |
そのお返しに天族は人に加護を与えていた | |
それが『共存の時代』? | |
うん | |
だが人間どもは、目に見えるものしか信じなくなった | |
仕方がないけどね。スレイやロゼみたいに天族が見える人はほとんどいないみたいだし | |
見えないのにいるのは怖いけど…… | |
悲しいよね。いるのに気付いてもらえないなんて | |
みんながロゼみたいに思ってくれるといいんだけどな | |
………… |
水よ! 敵を穿て! 鋭き氷、拡散せよ! | |
よし……かなり安定してきた | |
精が出ますわね | |
いや、これは別に…… | |
思った以上に複雑でしたね。ローランスの事情も | |
騎士団と教会の対立だけでも頭が痛いのに、風の骨の暗殺や、デゼルの復讐まで絡んできたからね | |
枢機卿に、デゼルさんの仇……強力な憑魔とぶつかることになるかもしれません | |
ロゼのことも気にかけないと | |
信じているけど、彼女だって人間だ。穢れてしまう危険性はついてまわる | |
はい。導師と同じか、それ以上に | |
なのに本人たちは案外お気楽だ。イヤになるよ | |
ミクリオさんが一緒だからですよ | |
どうだか | |
私もそうですし | |
僕は、僕のためにやっているだけさ。こう見えても向上心が強いんだ | |
ふふ。こう見えても、ですか | |
そうだよ。若いからね |
やっぱり枢機卿は憑魔だったな | |
ああ。正体まではつかめなかったがな | |
つまり、民のためと言ってはいたが、自分の欲望で動いてるってことだね | |
そんなものよ。人間なんて | |
強すぎるほどの責任感をもった方でしたね | |
自分がなんとかしなければという想いが、自己正当化と結びついてしまったのだと思います | |
よーするに、器じゃなかったってことだよね | |
教皇が逃げたのが原因なのかも? | |
それはわかりませんが…… | |
ロゼの仕事に関わることだよね | |
そ。だから教皇を見つけて、どんな奴か見極めないと | |
………… | |
スレイ、とにかく秘力を手に入れないと。後のことは後のことだ | |
そうだな。教皇様を捜そう | |
ゴドジンへゴー! |
これって……まさか『エリクシール』!? | |
マオテラスがつくったっていう万能薬! | |
あ、ヒメウスバシロチョウですわ | |
……ライラって時々不思議だよね | |
それよりエリクシールだ。本物かな? | |
天遺見聞録によれば、エリクシールの生成術は過去に失われているってあったけど | |
あ、マエカドコエンマコガネ発見! | |
……舐めてみればわかるかも? | |
おい、大丈夫か!? | |
一滴くらいなら | |
うわっ! 回復した! | |
本物だ! | |
これ、普通に買えると便利なんだけどな | |
それは難しいですね。人の世界に残っているエリクシールは教会が管理しているはずですから | |
へぇ、教会が | |
もう虫のことはいいんだ |
枢機卿の気迫、すごかった。あれが国を背負う覚悟なのか…… | |
ふん。所詮は憑魔に堕ちた者だ | |
あいつがデゼルの仇なのか? | |
正体まではつかめなかった。お前が押し負けたせいでな | |
……ごめん | |
次はしくじるなよ。俺の復讐のためにも | |
ああ。頑張るよ | |
……いいのか? 仇なら殺すということだぞ | |
そうだな。よく考えなきゃダメだよな | |
ありがとう | |
あ? なぜ礼が出てくる? | |
なんでって……オレを心配してくれただろ。今 | |
ふん、考えても意味はなさそうだ。そんなぬるい解釈しかできないようじゃな | |
………… |
なっ! なんじゃこりゃあー!? | |
でっかいエビね | |
化石……だよな? | |
すっげえ。昔はこんなのがいたんだ | |
とっつかまえてフライにしたかったわね | |
この外見……憑魔か……? | |
憑魔が化石に? まさか | |
だが、ならないという確証もない | |
刺身でもイケる確証はあるわ | |
ん〜。これどっちが頭? | |
左だろ? | |
右だろ | |
どっちが頭かわからん生き物? 変なの~ | |
いえ。エビもミソとシッポの美味しさは甲乙つけがたい | |
ホント、何なんだろうな、こいつ……? | |
だからエビだってば |
綺麗〜 | |
ええ。光る湖面に魅入られてしまいますわ | |
夜光虫かしら | |
デゼル? | |
俺に聞くな。知らん | |
あなたにも知らない動物ネタがあるのね | |
見えないほど小さな生き物が、光を発すると聞いたことがある | |
そいつらが棲息しているのかもしれん | |
へえ、見えないのがいっぱいいるんだ | |
ひとつひとつの命は数日らしいがな | |
数日だけ……一生懸命光ってるのに | |
薄幸な発光ですのね…… | |
い、今のは違いますわ! | |
良いんじゃない? 寂しい話でまとめられるよりよっぽど | |
おお? なんか高評価? | |
初めてほめられた気がします! | |
地底洞だけに『どう』メダルですわね! | |
さっきの撤回 | |
ライラの輝きも一瞬だったな | |
デゼルさんまで!? そんなあ〜…… |
………… | |
なんという鳥ですか? | |
グリフィカイト。トビの一種だ | |
あちらにも一羽。あんなに高く | |
ああ。見事に風を読んでいる | |
気持ちよさそうに飛んでいますわね | |
……人間の発した穢れにまみれた空だがな | |
もしかしたら、グリフィカイトがグリフォンの正体だったんでしょうか? | |
かもしれん | |
……穢れは人だけでなく、自然をも蝕みますものね | |
………… | |
ですが、穢れは祓えますわ | |
……スレイなら、か? | |
私たちなら、ですわ | |
ふん…… | |
デゼルさん…… |
ふっ、この香り……風に色がついているようだな | |
ハーブで風に色がついていると | |
詩的ね | |
ちっ……風に毒気が混じった | |
あら、誉めたのに嫌味にとるなんて。毒はあなたの中にあるんじゃない? | |
それは完全に嫌味だろう | |
まあまあ。あなたも一服したら? 落ち着くわよ | |
なっ!? お前、それは…… | |
ノルミンマグだけど? | |
その中身だ。早速ハーブティーにしやがって | |
ハーブは大地の恵みだもの。地の天族がいただいてもいいでしょう? | |
どういう理屈だ…… | |
いい香り……こんな時があるなら悪くないわね。旅も | |
……ふん。そうかもな |
これ……ヘリクタイトか! | |
ヘリク……? | |
へリクタイト。こういうねじくれた鍾乳石のことだよ | |
確かに……かなりひねくれてるよね | |
ああ。誰かみたいに | |
………… | |
鍾乳石って、伸びるのにすっごい時間かかるんでしょ? | |
すっごい時間ひねくれ続けたんだろうね。誰かみたいに | |
………… | |
変わってるけど……神秘的でキレイだよねえ | |
ああ | |
ここは言いなさいよっ! |