………… | |
ま、そのうち慣れるだろ | |
なんだ、まだ起きてたのか? | |
……さっきからいたんだが | |
無言でなんだよー。遠慮するような間でもないだろ | |
ああ。そんな間じゃないよな? | |
もちろん | |
もう寝るよ | |
……ごめんな | |
おやすみ、だろ |
ホント、ノルミンの力って面白いな | |
顔ほどじゃないけど | |
ノルミンさんたちのお助け能力は素晴らしいですわ。それぞれ効果も違いますし | |
顔は完全に同じなのにね | |
組み合わせ方で効果が変わるんだよな? | |
生意気すぎ。ノルのクセに | |
はい。組み合わせられるノルミンさんの数も増えていくはずですわ | |
ノル×ノル=ノル地獄 | |
ノルミンに厳しいよね、エドナは | |
別に。ただちょっと因縁があって | |
問い詰めたいことが77個、苦情が108個、訴えたい案件が32個! | |
あるだけよ | |
複雑なんだな…… |
ルーカスに木立の傭兵団か。変わった連中だな | |
あんな繋がりもあるんだな…… | |
一応、筋は通ってるし。あいつらの理屈だけど | |
彼らのように信じるものに自分の在り様を委ねる人間は、むしろ純粋なんですわ | |
確かに穢れは感じなかったね | |
つまり、穢れとは単純な善悪ではないと……? | |
悪人でも――いや、悪人だからこそ穢れないこともありうるわけか | |
はぁ……穢れって難しすぎだね | |
ふふ、そんな風に悩めるスレイさんの心が大切なんですよ | |
私もそう思うよ、スレイ | |
純粋というより単純なだけな気もするけど | |
……否定はできないね | |
あ〜〜〜! ますます難しいっ! |
………… | |
この森も遺跡だったんだな | |
どの遺跡も憑魔の住み処になっちゃってる。本当に広まってるんだな、穢れが | |
スレイさん…… | |
………… | |
遺跡が憑魔の巣なのは、僕も残念だよ | |
けど、探検しながら憑魔も祓えるのは、一石二鳥じゃないか? | |
どんな探検家や歴史家もできなかった冒険だ | |
前向きだなぁ、ミクリオは | |
はあ!? | |
うん。悩んでても答えは出ないしな。それくらいノーテンキな方がいいよ | |
スレイさんに言われると…… | |
ショックですよね | |
行こうぜ! ポジティブミクリオ! | |
お前! わかって言ってるだろ!? | |
略して | |
ポジリオ? | |
略すな! |
これが……戦場なんだね | |
はい。この風景だけは昔も今も変わりません | |
人が人でなくなるみたいだ | |
事実そうよ | |
英雄とか豪傑とか呼ばれた連中って、大抵は憑魔なんだから | |
戦場ほど穢れを生み、人がそれを受け入れてしまう場所もありませんから | |
そんなところで名を残した者が英雄……か。憑魔だと言われれば納得だね | |
たしか、百勝将軍ディンドランとか、大昔に大陸を統一したメリオダス王とかも | |
歴史の本に絶対出てくる名前だな | |
『暗黒時代』を終わらせたクローディン王も? | |
彼は……違います | |
クローディンさんは導師だったと聞いていますわ | |
そうなんだ | |
知らなかっただけで、ずっといたんだな。導師も憑魔も…… |
僕の中での暗殺者のイメージが崩壊していくよ…… | |
皆さん良い方たちですね | |
うん | |
ロゼって子は天族を信じたくないようだけど | |
きっとすごい資質をお持ちですのに…… | |
ああ。彼女、穢れも感じない | |
ロゼが天族を知覚できないのは、彼女自身が拒絶してるからなんだな |
けどミクリオ、メーヴィンとの話聞こえてたんだ | |
君が僕たちを知覚できなかっただけだ。他の事も全部見てた。ずっと側に居たからな | |
で、仲間はずれにされて泣いてた | |
泣いてない! |
ドラゴン……八天竜の石像か? | |
いや、数があわない。ドラゴン信仰の遺物なのは間違いないと思うけど | |
時代を考えると、八天竜伝承の原型になった信仰かもしれないな | |
神頼み〜はわかるとしてもさ、なんでそれがドラゴンなんだろ | |
どうにもできない力をもった存在。恐怖の象徴だからでしょ | |
荒神として祀れば助かるとでも思ったんじゃない? | |
あ…… | |
あちこち回ったけど、足跡も見たことないけどね | |
あ。レイフォルクの側で聞いた雷の音は、ドラゴンっぽかったかも | |
本物よ、それ | |
またまたあ! | |
行ってみればわかるわ。命もなくなるだろうけど | |
……え | |
オレたち、レイフォルクでドラゴンに会ったんだ | |
そのドラゴンはエドナのお兄さんで…… | |
は? エドナは天族でしょ? | |
不思議はない。ドラゴンは穢れきった天族が実体化した化け物だからな | |
………… | |
別に謝らなくてもいいわよ | |
ドラゴンを拝むのがバカみたいっていうのは同意だから |
どうなったんだろうな? 戦争の結果 | |
さあねえ。ローランス軍が崩れたのまでは確認したけど | |
直後にハイランドも将を失い撤退した | |
勝敗は引き分けといったところだな | |
あんたもあそこにいたんだ? | |
……戦場を見るのが趣味でな | |
ふうん | |
オレがやったことが、そのまま結果に結びついたわけか | |
ライラの言った通りだな | |
アリーシャやルーカスは大丈夫かな | |
ルーカスは平気だろう。アリーシャのことは…… | |
ハイランドを信じるしかないね | |
だよな…… | |
とにかく! 僕らにできるだけのことはやったさ | |
だよな! | |
そういえば別れたんだ? アリーシャ姫と | |
うん。マーリンドで | |
アリーシャにはアリーシャの夢があるからね | |
もしかして、あたしって後釜? | |
そういうつもりはないよ! | |
そんなつもりはない! | |
あはは! 変な聞き方してごめん | |
気にしなくていいよ。一緒に行くって自分で決めたんだからさ | |
逆に、お姫様の役を求められても困る | |
それはわかってる | |
わかってるのはいいけど…… | |
即答は失礼じゃない!? |
ロゼは最初から見えてたら、天族も憑魔も怖がらないんだな | |
そりゃそうでしょ。最初から見えるって事は居るって事だよね? | |
見えなかったのが見えるって事は、居ないって思ってたのにホントは居るって事 | |
マジこわくない? | |
わかるようなわからないような……。ミクリオたち、苦労しそう…… |
この壁画の紋様、似てないか? ペンドラゴの神殿ってのの紋様に | |
天遺見聞録に載ってるのとは確かに似てるな | |
どっちかが模倣なんじゃないかな | |
ふむ……ということは、ここは『アスガード隆盛期』の遺跡ということか | |
ペンドラゴの神殿がそうだからな | |
うーん。ペンドラゴの神殿も見てみたいなぁ | |
それはちょっとむずいよ | |
え、なんで? | |
ペンドラゴはローランス帝国の首都、神殿は教会の総本部 | |
今や教会関係者、しかもトップ連中しか入れないって事 | |
そっか〜 | |
全然諦めてないな…… |
ロゼ | |
ん? なに? 改まっちゃって | |
……導師の使命についてなんだけど | |
大地の記憶で見た災禍の顕主ってのを、やっつけるってやつね。それがなに? | |
オレ、戦場で会ったんだ。災禍の顕主に | |
そうなんだ | |
けど、まるで歯が立たなかったんだ | |
無様に霊応力まで封じられてな | |
ふむ。そこをあたしが助けたんだ | |
で? | |
でって……つまり危険なんだよ、この旅は | |
正直、勝ち目があるかどうかもわからない | |
勝ち目を探すの手伝うし、勝ち目がなければ逃げればいいっしょ | |
大丈夫だって。スレイは実力も現実もわかってるじゃない | |
……ありがとう | |
なにが? | |
とにかく、さ | |
ようわからんけど……どういたしまして | |
問題ない。やばくなったら逃げるだけだ |
うわ! なんかスゴイのがいる! | |
ああ、ローランスオオカブトだね | |
へえ〜、イズチにはいなかったよ | |
カッコイイなあ! | |
スレイみたいな物好きが多くてね。良い値で売れるんだよ | |
……違う | |
え? | |
そいつはヴァーグランオオクワガタだ | |
クワガタなんだ! | |
あー……似たようなもんでしょ? どっちもツノついてるし | |
全然違う | |
カブトのはツノだが、クワガタのはアゴだ | |
うぐ! | |
詳しいな、デゼル! | |
ふん、常識だ | |
けど、発達は異なるけど用法は……? | |
どちらも闘争用だが、クワガタは腐葉土や朽木に潜るためにも使うな | |
似てるけど別の道具ってことだな | |
要するにアレね! | |
お好み焼き用のコテともんじゃ焼き用のヘラみたいなもんだと! | |
いや、それは…… | |
なにを言ってるかわからん | |
なんだよー、意気投合しちゃって! |
見ろよ、ミクリオ! でっかい切り株だ | |
ふむ……年輪からすると樹齢千年は越えてるね | |
……数えたのか? ヒマだな | |
目測でわかるだろう! | |
二十年の幅を目安にして、半径が五十倍あれば千年だ | |
ん? やけに年輪が詰まってる場所があるぞ | |
本当だ。なぜだろう? | |
気候が冷え込んだか、日差しが弱かった時代があったんだろう | |
そうか! それで木が生長できなくて年輪が狭まった | |
大体……千年くらい前か | |
木も歴史を記録してるんだな | |
しかし、よく気付いたね | |
ちょっと考えればわかることだ |
キレイな石だな | |
石黄っていう石よ | |
ほう。確かに見事な黄色だ | |
そう。だから昔は顔料とかに使われてた | |
やけに詳しいな | |
もちろん。地の天族だから | |
……どうしたんだ? そのしゃべり方 | |
石黄は、別名雄黄とも言うわ | |
雄黄なら知ってる! 毒薬の原料だよね | |
毒薬!? | |
あたしたちは使わないけど。確かヒ素の一種だったかな | |
猛毒じゃないか! | |
それを早く言えよ! | |
だからずっと言ってたじゃない | |
ヒソヒソ話……か! | |
あはは! 上手い! | |
笑い事じゃないだろう…… |
ブツブツブツブツ……うう~ん | |
どうしたの、ロゼ? | |
具合でも悪いのですか? | |
フォエス=メイマ、ルズローシヴ=レレイ、ハクディム=ユーバ、ルウィーユ=ユクム! | |
フォエス=メイマ、ルズローシヴ=レレイ、ハクディム=ユーバ、ルウィーユ=ユクム! | |
ちょ、いきなり何!? | |
それ、こっちのセリフ! | |
ライラと契約した時、三秒で憶えろって超早口で叩き込まれたんだよー! | |
おかげで頭から消えないし〜! | |
あの時は緊急だったもので、つい | |
時々強引だからね、ライラって…… | |
お化けとは別の意味で怖い〜! |
僕も誓約をすれば、ライラみたいな力を得られるのかな……? | |
やめておきなさい。誓約は特別すぎる力よ | |
そんなものに頼らなくても、力を磨き上げれば、自分だけの術は身につくわ | |
エドナは……もってるのか? そういう術 | |
当たり前でしょ | |
どんなのだ! 見せてくれないか? | |
ふふふ、大胆なこと言うのね。大人の階段を登る気満々じゃない | |
う……変な言い方はやめろ! | |
そんなに見たい? どうしてもってお願いするなら、特別に見せてあげてもいいけど | |
……いやいい | |
せっかくのチャンスをボーに振るミクリオ……略してボミね | |
力を磨き上げるか…… |
水よ! 敵を穿て! 鋭き氷、拡散せよ! | |
くっ……ここで拡散を自在に操れれば…… | |
くっ! | |
押さえ込みが弱すぎたか | |
けど感覚はつかめてきたぞ | |
ミクリオ、お前…… |
この鐘楼、機械仕掛けなのか! | |
そう、ラストンベルの名物! | |
歯車がバーって動いてね。鐘の音が音楽に聞こえるんだよ | |
それは聞いてみたいですわね | |
う〜ん、さすが職人の街。すごい技術だな | |
あ。興味そっち……? | |
動力はどうなってるんだろう? | |
さぁ? なんだろ? | |
水を汲み上げる音がする。おそらく地下水脈の流れを利用しているんだろう | |
地下水脈!? | |
本当? そんな風に見えないけど | |
籠城用に隠してあるんだ。元々、ここは砦としてつくられた場所だからな | |
それで城壁に囲まれてるのか! | |
この鐘楼も元は狼煙台だ | |
そんな過去が……面白いなあ! | |
まったく男どもは。注目するとこ違いすぎ | |
ふふ、でも面白いですわよね? | |
まあね |
まあ、美味しそうなおイモ! | |
ああ。ラディッシュベルね | |
小ぶりだけど、中は甘くてホクホクだよ | |
バターがあいそうですね | |
さっくり揚げて塩でいただいても! | |
いいですわねえ! | |
言っておくがそのイモ……毒があるぞ | |
そうなんですか! | |
あ。だっけ? | |
大量に食べれば死ぬレベルでな | |
けど、火を通せば問題ないっしょー | |
大ありだ。丸ごと焼いたら毒性が強まる | |
そうだ芽! 芽を取ればいいんだった | |
皮もだ。ラディッシュベルの毒は芽と皮にある | |
皮を丁寧にむいて、芽を取り除けば、あとは大丈夫だ | |
ちょ、ライラ! なんでデゼルに寄る!? | |
なんでと言われましても…… | |
お前が大雑把すぎるからだ |