| 大変なこともありますけど、やっぱり旅は楽しいですね | |
| そうか。ライラは長い間聖剣に宿っていたから、旅は久しぶりなんだね | |
| ええ。ミクリオさんは初めての旅なんですよね? | |
| スレイもね。だから、仲間ができて頼もしいよ | |
| あらためてだけど、陪神としてよろしく | |
| こちらこそ心強いですわ。よろしくお願いします | |
| ライラもだけど、アリーシャが仲間になってくれたのもよかった | |
| スレイは、ずっと天族の中で独りだったからね。人間の仲間がいればと思っていたんだ | |
| スレイさんは、愛情を受けて育ったように思いますけど? | |
| それはそうだよ | |
| けどきっと、人にしかわからないこと、見えないものは多いと思うんだ…… | |
| ミクリオさん…… | |
| っと。今のこと、スレイには―― | |
| はい。主神と陪神の秘密ですね |
| そういえば、聖剣祭って『湖の乙女』のお祭りなんだよね | |
| ライラが祀られてたってこと? | |
| 湖の乙女は、レディレイクの古い伝承ですわ | |
| そう。聖剣で人々の罪を浄化する猛き御方 | |
| 霧とともに湖を歩き、黒き炎で魔を滅す | |
| 月夜に歌い、迷える民に励ましを与える心優しき乙女――と伝えられている | |
| ライラって水の上を歩けるの!? | |
| まさか! それほど軽くはありませんわ | |
| 今の……いくつかの言い伝えが混じっているように思えたけど? | |
| そうですね。私がこの街に来た時には、すでに伝承はあったんですの | |
| じゃあ、湖の乙女は別の天族? | |
| はい。でも、ご不在だったので、聖剣を器にさせていただいたのです | |
| 導師を待つために、だね | |
| 地下水道の遺跡で見たように、レディレイクは導師に関わりの深い街ですから | |
| ずっと独りで……お寂しかったでしょう? | |
| それほどでも | |
| 寂しい時は、歌を歌ったり、街の人たちの悩みを聞いたりしていましたから | |
| それって伝承の!? | |
| そうか。霊応力をもつ人間がそれに気づいて―― | |
| それまでの言い伝えに別の事実が混ざって新しい伝承が生まれた | |
| 歴史って、こんな風に伝わるんだな |
| さあ、頑張って奉納しないと! | |
| 張り切ってるね | |
| もちろん! レディレイクに加護が戻ったんだ | |
| でも、維持することが難しいんだと思う。今できることをしっかりやらなければ | |
| アリーシャさんのおっしゃる通りです。日々の行いが加護を支えるのですわ | |
| わかった。オレたちもしっかり奉納していこう | |
| 加護が強まれば旅もしやすくなるだろうしね | |
| あの本みたいにオニギリをあげたら喜んでくれるだろうか……? | |
| オニギリを奉納するの!? | |
| 書いてあったかな? 天遺見聞録にそんなこと | |
| あ……いや! 絵本の話だよ | |
| 転がったオニギリを追いかけた女の子が天族と出会う物語でね | |
| 大好きなお話だったから、つい…… | |
| はは、そんな本も読んでたんだね | |
| きっと喜んでくれますわ。純粋な想いがこもったオニギリですもの | |
| そうだと嬉しいです |
| すっげ……本がこんなに! | |
| しかし、さすが王宮だね。貴重な本が揃っている | |
| 遺跡や歴史の本も多いな。全部読んでみたいけど…… | |
| あの本、面白そうな題名ですね | |
| 『くるおしき愛の叫び』……詩集かな? | |
| ちょっと読んでみるか | |
| おい、本が浮いて見えるって! | |
| 大丈夫。アリーシャがカバーしてくれてる | |
| まったく。オレが持つから貸して | |
| ……なるほど。これはくるおしいな | |
| 愛と苦悩を叫びながら、青すぎる情熱がほとばしっていますわ | |
| 十年後に読み返した作者が、自分のあまりの若さにもだえ回るのが見えるようだ | |
| そういう意味でも、くるおしいですわね | |
| そう? いいこと言ってると思うけど | |
| スレイ、君ってヤツは…… | |
| 情熱家なんですね | |
| うう、二人の視線……なんかくるおしい! |
| 秘密の地下牢……ですわね | |
| ああ、かなりの穢れを感じる | |
| どんな人間が閉じ込められたのかな? | |
| さぞ怨みを残したのでしょうね。王家への怨みを…… | |
| アリーシャが気に病むことじゃ | |
| 私は大丈夫だ。とにかく地上への出口を探そう | |
| 開いている檻もありますわ。用心して進みましょう |
| スレイ……王宮でのことは…… | |
| ん? | |
| なんと言ったらいいか……本当にすまなかった | |
| 気にしないでよ | |
| けど、あそこまでするなんて | |
| もちろん、スレイなら大丈夫とわかっていたが…… | |
| ううん。アリーシャが来てくれなかったら、多分バルトロさんたちは殺されてたよ | |
| ……愚かだと思うだろう? 自分を殺そうとした者を助けるなんて | |
| けど、あれは計算なんだ | |
| 彼らがいなくなった混乱は、私では収拾できない。それで私は…… | |
| 自分のことより、国のことを優先した | |
| だろ? | |
| いけない。謝りに来たのに愚痴を聞かせてしまった | |
| よいのだ、従士よ。これも導師の重要な役目なのだ | |
| 感謝します、導師よ。ふつつかな従士に御命令があれば、なんなりと | |
| じゃあ、ひとつお願い | |
| 遠慮なく言ってくれ | |
| あとで兵士の人たちに謝っておいて。『ぶっとばしちゃってごめん』って | |
| お安い御用だ | |
| 兵たちも君が手加減してくれたことは、よくわかっているはずだよ | |
| まったく聞いていられないね | |
| 聞いちゃいましたけど | |
| 別に聞きたかったわけじゃない | |
| でも、心配なんですよね? | |
| ……スレイは、なんでも背負いすぎるところがあるからね | |
| それだけだよ |
| すっごい腕前だったよな | |
| あの暗殺者たちか | |
| ああ。憑魔並の力を感じた | |
| だが……普通の人間だったよな? | |
| と思う | |
| ………… | |
| でも、なんで憑魔じゃないんだろ? | |
| それは…… | |
| 実はいい人とか | |
| そんな。大陸一の暗殺ギルドなのですよ | |
| アリーシャは詳しいのか? 風の骨のこと | |
| 有名ですから | |
| 顔を見た者もいないから、断片情報からの推測なのですが | |
| 貴族、裏社会の大物、軍人など、百名近くの暗殺に関わっているといわれます | |
| 半分都市伝説と思っていましたが…… | |
| あの腕なら納得だな | |
| でも、実際に憑魔ではありませんでしたわ | |
| なにか事情があると……? | |
| それはわかりませんが | |
| 事情かあ…… | |
| 会って確かめたいなんて言うなよ | |
| 言わなくても、また会うかもだろ? | |
| 全力で遠慮したいけどね、僕は |
| スレイさん、全然導師と思われていませんね | |
| アテにされて大騒ぎになるよりマシさ | |
| それに、スレイはそんな事よりも別の事が気になってるらしい | |
| ……橋の復旧作業ですわね? | |
| うん、これ程進んでないなんて思ってなかったよ | |
| まだしばらくはマーリンドは孤立状態か | |
| なんとかしてあげたいな | |
| …… |
| 近くで見ると、ホントすごい山だな〜 | |
| まさに霊峰の名にふさわしいな。それにしても……ドラゴンか…… | |
| ちょっと信じられないよな | |
| 少なくとも私が以前訪れたときには、その姿は見えませんでしたわ | |
| それって前の導師との旅? | |
| い、いきなりしりとり大会〜! あんぱん! あ、終わってしまいましたわ! | |
| めちゃくちゃだ…… | |
| はは……例の誓約だね…… | |
| と、ともかく! 仮に本当にドラゴンが居るのなら、今の私たちでは全く太刀打ちできませんわ | |
| もし出会ってしまったら逃げろって事か | |
| 出会わない事を祈るよ |
| まったくあの方ときたら! | |
| さっきの奴のこと聞きたいけど…… | |
| いつもいつも不真面目で! | |
| あの不思議な道具のことも聞きたいが…… | |
| しかも乙女の前でハダカなんて! | |
| 今はやめておいた方がよさそうだね | |
| 賛成 |
| 本当に綺麗なところだな | |
| ドラゴン伝説のおかげで人があまり立ち入らないから、穢れが少ないのでしょう | |
| 祠もある。ここが天族の住み処に間違いないだろう | |
| もしかしてここのドラゴン伝説は、この祠を守ろうとした人間がデマを流したのかな | |
| ふむ……そうだとしても、あまり効果はなかったようだ | |
| これを見ろ。花が供えられている。人が来ている証拠だ | |
| その祀られてる天族も見当たらないけど…… | |
| 人に祀られている天族が祠から離れてるなんて……ちょっと普通じゃないね | |
| ……まさかドラゴンに……? | |
| ですが、本当にドラゴンが居るのなら、この程度の穢れではすまないと思うのですが…… | |
| もっと進んでみるしかないね | |
| うん |
| ねぇ水のボーヤ。名前は? | |
| 僕はミクリオ! ボーヤじゃない | |
| 聞かない名前ね……。ミクリオボーヤ | |
| 好きに呼んでくれ…… | |
| じゃあミボ | |
| ミクリオと呼んでもらう! いいね! | |
| ふぅ……しょうがない | |
| エドナさん……もうカカア天下ですの? | |
| そう | |
| ちょっと待ってくれないか……意味がわからない | |
| もう! 頭ん中で漫才しないでくれ! |
| スレイ、聞いてもいい? | |
| ああ。なんでも | |
| あなた、暗殺者に狙われてるのよね | |
| うん。どうもそうみたいだ | |
| 恨みを買ったの? なぜか穢れない暗殺者に | |
| そんな覚えはないんだけど…… | |
| 覚えもないのに、なぜか天族が憑いた、これまたなぜか穢れない暗殺者に襲われたわけ? | |
| い、いや。理由はオレが導師だからだと思う | |
| なるほど。導師だから…… | |
| 傭兵団にいたはずの、なぜか憑魔にならない天族が憑いた これまたなぜか穢れない暗殺者に狙われていたのね |
|
| 状況は理解したわ | |
| よ、よかったよ。わかってもらえて | |
| ようするに、ほとんどわかってないってことね | |
| ……だね |
| …… | |
| すごいな……導師にとっては荒れた河など障害にならないんだな | |
| ですが、あまり人前で見せるべき力ではありません | |
| うん……そうだろうな | |
| そうよ。この子みたいにいちいち反応されて面倒だもの | |
| エドナ様……申し訳ありませんでした…… | |
| そうよ。反省なさい | |
| それに自己紹介しあっただけなのに、もう名前で呼んでくるなんて随分馴れ馴れしいのね | |
| 申し訳ありません…… | |
| お詫びにノルミンダンスを踊りなさい | |
| の、ノル? | |
| わからないの? 反省なさい | |
| 申し訳ありません…… | |
| お詫びにノルミンダンスを―― | |
| 無理矢理もとに戻さないでくれ! | |
| ライラ! エドナがアリーシャをからかってるだけってわかるだろう! | |
| 何故止めないんだ! | |
| すいません……少しでもお話しした方が仲良くなれるかなと…… | |
| アリーシャ、エドナはこう言うヤツなんだ。言ってる事をいちいち真に受けなくていい | |
| 言うわね。ミボのくせに | |
| ミボ? | |
| わからないの? 反省し―― | |
| もういいよ! |
| 天族を祀る祠かな? | |
| ええ。かつては器だったようですね | |
| かつては……か | |
| 昔は、こんな祠があちこちにあって、加護が広がっていたんだろうね | |
| そうですね。祈りを捧げる人も大勢いました | |
| 少ないかもだけど、今も祈る人はいるよ | |
| ほら、エドナの山の祠。あそこにも花が添えられて―― | |
| あれはワタシよ | |
| え? | |
| あの祠は、お墓代わりだもの | |
| お兄ちゃんが食い殺した人間たちのね | |
| でも……それは…… | |
| 同情はいらない。悪いのは人間たちだし | |
| ドラゴンの噂を聞いて面白半分で来るから、ああなったのよ | |
| ………… |
| あっ! かわいい! | |
| ただのリスでしょ | |
| いえ、あのフワフワ尻尾はフォルクエンリスです。とても貴重な種類で―― | |
| 落ち着きなさい | |
| でも、あんなにフワフワモコモコでかわいいと思いませんか、エドナ様? | |
| そう。カワイイものをやたらカワイがる自分をカワイイと思ってもらいたいのね? | |
| い、いえ! そんなつもりは! | |
| 静かに。フワフワが逃げちゃうでしょ | |
| ですね。反省します | |
| おわびにリスリスダンスを踊りなさい。フワフワバージョンで | |
| リスリスダンス!? しかもフワフワバージョン?? | |
| イジられてますね。アリーシャさん | |
| 放っておいていいのか? | |
| わかりました、エドナ様! | |
| リスリスダンス・フワフワバージョンの指導をお願いします! | |
| ワタシは厳しいわよ? | |
| 望むところです! | |
| いいんじゃないでしょうか。楽しそうですし | |
| 確かに |
| これが、あのマーリンドだなんて…… | |
| 歴史ある街なんですよね? 天遺見聞録にも紹介されているとか | |
| うん。一回来てみたかったんだ | |
| 『聖なる大樹そびえし学都、マーリンド。その梢に輝くは、学問の実と芸術の華』 | |
| 『この木陰に遊ばずして、いかにして大陸の知と美を語るべきや』……ってね | |
| 花も実も枯れちゃってる感じ | |
| またそういうことを言う | |
| ですが、事実です…… | |
| けど、また春がくれば花が咲くし、秋には実がなるよ | |
| はい。学問や芸術への情熱が消えない限り、何度でも | |
| ね? | |
| 確かに。それは歴史が証明してるね | |
| 頭のお花は、もう満開ね | |
| エドナ様はお嫌いですか……お花? | |
| 別に好きだけど。キレイな花ならね |
| ここも加護天族はいないんだな | |
| そのようね | |
| 世界中がこうだとは思いたくないが…… | |
| 人間嫌いの天族は少なくないと思うわ | |
| ……もう人と天族は共存してないのかな | |
| 天族と人が共存できるとか思ってるの? 夢物語ね | |
| 夢とは限らないだろう | |
| けど、現実はこうよ | |
| 難しいのはわかってる。でも、現実にそういう時代はあったんだ | |
| 遺跡にも天遺見聞録にも証拠が残ってる | |
| それ、いつの話? | |
| 大昔の話だね | |
| けど、今もエドナみたいな天族がいる | |
| は? | |
| 加護も取り戻せるってわかったしね | |
| そう。加護復活は共存への第一歩だと思うんだ | |
| だから、よろしく頼むよ。エドナも | |
| まったく勝手ね。だから人間は…… | |
| 慣れた方がいいよ | |
| 勝手なヤツが多いわ |
| この石像……りりしいお顔ですわね | |
| この面構えは相当の武人と見ました | |
| なかなかいい男。全身を見てみたいわね | |
| えっ! でもこの方は…… | |
| ほとんどハダカでは? | |
| だからいいんじゃない。芸術的で | |
| た、たしかに鍛え上げられた武人の肉体は芸術的だと思いますが…… | |
| アリーシャさん、はしたないですわ! | |
| いえ! あくまで一般論で私がそういう趣味というわけでは! | |
| あるんでしょ | |
| なっ! ないことはないかもですが―― | |
| よく盛り上がれるね。石像相手に | |
| まったくだ | |
| そりゃあ、クローディン王は武を極めた英雄だけどさ | |
| 待った。この像はクローディンじゃなくてメリオダス王だろう? | |
| え? それだと様式が合わなくないか | |
| 後世に想像を加えてつくられたからだよ | |
| いや、その解釈は強引すぎだって | |
| そっちこそ固定概念にとらわれすぎ | |
| じゃあ、先入観なしで考えてみよう。そもそもこれが誰であるか、まず特徴が―― | |
| よく盛り上がれるわよね。石像相手に | |
| 本当に | |
| スレイさん、見て! | |
| 大樹が華を! | |
| 『聖なる大樹そびえし学都、マーリンド』 | |
| 『その梢に輝くは、学問の実と芸術の華』 | |
| この華みたいに戻るよな。学問も芸術も | |
| きっとな! | |
| 大したものね | |
| くしゅんっ! | |
| あれ……誰か噂した? | |
| 花粉のせいでしょ |