| 紅茶のシフォンケーキは何度食べてもおいしいですわね | |
| へぇー。ライラはシフォンケーキが好きなんだ | |
| えぇ。昔から大好きなんです。作る時も楽しいですし | |
| だが自分で作って自分で食べるのって、大変じゃないのか | |
| 知らないの。女の子にとっておやつは別腹なの | |
| ちょ、なんで僕がつつかれないといけないんだ!? | |
| 知らないあなたが悪いのよ | |
| 僕が悪いのか!? | |
| 女の子が本気になると、食後にシフォンケーキとバターケーキを十個は余裕でいけるわよ | |
| さすがにそれはないだろ!? | |
| それが意外といけてしまうんです。ねぇ、エドナさん | |
| ライラまで! だがそんなことをしていたら、すぐにふと―― | |
| あたっ! | |
| それ以上言うと刺すわよ | |
| もう刺しているじゃないか! |
| エドナ、本当にそのお菓子が好きなんだね | |
| そうね、食べやすくておいしいから好きよ。それに…… | |
| それに? | |
| …… | |
| いいからあなたたちも食べてみなさい | |
| あ、ありがとう | |
| なにがあってもこれだけは、忘れずにお土産にしてくれていたからよ |
| ほら、出来たぞ | |
| あ、マドレーヌだ。ありがとう、デゼル | |
| 礼などいい。早く食え | |
| うん | |
| うぐっ……うぐっ、ごく | |
| ねぇ。デゼルの味付けって、あたしと似てるよね。なんで? | |
| さぁな、ただの偶然だろう | |
| えぇ、そんな偶然ってあるのかな? | |
| ロゼ、何をそんなに悩んでるんだ? | |
| 大したことじゃないんだけど。あたしとデゼルのマドレーヌの味付けがめちゃめちゃ似てるの | |
| なんでかなって思って | |
| …… | |
| ぐ、偶然なんじゃないかな | |
| そうかなぁ。隠し味のパレンジ果汁まで同じってのは、ちょっとおかしくない? | |
| マドレーヌを極めた者が隠し味にパレンジを使うのは常識だ | |
| え! | |
| マドレーヌだけじゃない。おやつ毎に最適な隠し味の組み合わせが決まっている | |
| おやつに限らず料理を極めたいのならば、正しい隠し味を見極めることだ | |
| あ、うん | |
| まさかデゼルがこんなにおやつに詳しいなんて思わなかったよ |
| なんかものすごい音がするんだが、ロゼはいったい何をしているんだ? | |
| ……おやつを作っている | |
| うわぁー! | |
| 大丈夫か? 何があった? | |
| へーきへーき! バタークッキー作ってて失敗しただけ | |
| この状況を見ると、失敗と言う以前に、作り方そのものに問題がありそうだな | |
| そもそもバタークッキーを作るのに、どうしてダガーやそろばんが必要になるんだ | |
| かき混ぜたり、生地を伸ばしたり、型を抜いたり、いろいろ使えるっしょ | |
| どうすればそんな使い方を思いつけるんだ…… | |
| そう? すっごく使いやすいけどな〜。今までこれで作れてたし | |
| 今回はたまたまミスっちゃったけど。さ〜て、片付けますか | |
| ……今回はたまたま、だそうだけど? | |
| ……俺に聞くな | |
| ……じゃあ質問を変えるよ。どうするつもりなんだい? | |
| ……聞くな…… |
| やっぱり小麦はパルバレイ産に限りますね | |
| イチゴはマーリンド産、一択だ | |
| ミルクはどうしましょう | |
| 何を話しているんだ? | |
| 美味しいショートケーキを作るために、食材の産地を選んでいるんです | |
| 食材選びは味を左右する。覚えておけ | |
| うん。それでどんな感じなんだ? | |
| 小麦はパルバレイ産、イチゴはマーリンド産にしようかと | |
| あとはクリーム用のミルクなのですが | |
| 求める味によって産地が変わってくる | |
| スレイさんは滑らかさと濃厚さ、どちらがお好きですか? | |
| うーん。濃厚さかなぁ | |
| ならばレイクピロー産だ | |
| では、それにしましょう。デゼルさん、相談にのってくださってありがとうございます | |
| ふん……ただの気まぐれだ。気にするな |
| ほーら、出来たぞ! | |
| 待ってました! | |
| まぁ! | |
| …… | |
| どうしたんだ? 見ていないで、早く食っちまいな | |
| いやぁ〜、前も思ったけど | |
| まさかザビーダがブドウのミルフィーユを作れるなんて…… | |
| はは〜ん。俺様の新たな魅力を発見して、全員見惚れちまったか | |
| 調子に乗るな | |
| いでっ | |
| どうしてザビーダさんは、こんなにおいしいお菓子を作れるようになったのですか | |
| それ、あたしも知りたい。意外過ぎて全く結びつかないんだもん | |
| 聞くだけ無駄だと思うけど | |
| そんなことないさ。ザビーダもやる時はやるやつだし | |
| おっ、導師殿はわかってらっしゃる! | |
| それで、どんな理由なんだ? | |
| 昔一緒に旅をしていたやつがどうしても食べたいって言うから、作ってやったのが始まりだ | |
| そいつがすげー美人でさぁ、可愛く頼まれたから断れなかったって訳だ | |
| えっ! | |
| やっぱり | |
| そういう理由なのね |
| ふう。やっとうまくできた〜 | |
| お、ロゼちゃん。何が出来たんだい? | |
| あぁ、バームクーヘン。前は失敗なんてした事なかったんだけど | |
| 同じようにやっているはずのに、最近はうまく仕上がらなかったんだよね | |
| それが、ようやく上手く出来たって訳か | |
| うん | |
| はい。セキレイの羽印のバームクーヘン。あたしの自信作だ、食べてみて | |
| ……95点 | |
| うまい! | |
| しっとりしていてやわらかい。甘さも控えめでちょうどいいです | |
| 周りのシュガーコーティングがいいアクセントになっている | |
| 隠し味は蜂蜜とメロン果汁ってとこか | |
| へぇ〜、よくわかったねぇ。隠し味には自信あったんだけどなぁ | |
| 風が読めるからな。あいつの考えそうな事だ | |
| そっかぁ。こんなところでも助けられていたんだね、あたしは | |
| ありがとう、デゼル |
| ミクリオはいろいろなお菓子が作れるようになったな! | |
| まさか旅をしながら、ここまで出来るようになるとは、自分でも信じられないくらいだ | |
| こんなにたくさん作れるのであれば、もう怖いものなしですわね | |
| おいしいし、戦闘で役に立つし、まさにミクリオさまさまって感じ? | |
| たまに失敗する事もあるようだけど | |
| まぁ、それもご愛嬌ってやつじゃね? | |
| 思い思い勝手な事を…… | |
| まぁまぁ、みんな感謝してるってことだよ | |
| ……そういう事なら…… | |
| これからもよろしくな、ミクリオ! |
| マロングラッセの芳醇な香りと上品な甘み。大地の恵みが詰まった、おやつの最高傑作だわ | |
| ええ。優雅な午後のひと時にいただきたい、贅沢な一粒ですよね | |
| そうそう、その高級感が女子を喜ばせるんだよねぇ | |
| 女性の心がよくお分かりですのね | |
| はっはっは。お菓子は女性の心を溶かす大事なアイテムだからな | |
| ……マロングラッセはね、手間と時間をかけて、香り高く仕上げるお菓子なの | |
| 古の大王が最愛の王妃に送ったとも言われる、ロマンあふれるものでもありますわ! | |
| そうそう、ロマンとマロンも掛かって、ベスト口説きスイーツなんだよ | |
| うまいこと、何ひとつ言えてないし、口説きアイテムに使うなんて1000年早いから |
| 導師殿、ライラたちは? | |
| 疲れたから、みんなサウナに入るって | |
| スレイ、サウナ行こうぜ! | |
| 後でいいよ。オレは | |
| つれないこと言うなって。男はハダカのつきあいが大事なんだぜ? | |
| 普段でもハダカだろ、ザビーダは | |
| 意外に心は厚着してんだって。そんな殻は脱ぎすてて絆を深めたいわけよ | |
| 共犯的な関係でな | |
| もしかして……風で女サウナを探る気じゃ……? | |
| お? 真面目な顔してわかってんじゃねえか。この不良導師♪ | |
| やめた方がいいよ。絶対気付かれるって | |
| ふう……損得で考える大人にはなりたくないねえ…… | |
| しっとりと流れる汗、熱く火照った体……サウナという健康的かつマニアックな美がそこにある | |
| スレイ……一緒に美の狩人になろうぜ | |
| ふう……いい汗かいた。スレイたちもサウナに入ったら? | |
| こういうこと? | |
| あってるけど違うっ! | |
| ん……? |
| ライラたちは? | |
| みんなサウナに入るって | |
| っしゃ! サウナ行こうぜ! ミク坊も! | |
| 僕は後でいい | |
| 反論は却下! 男はハダカのつきあいが以下略! | |
| なんなんだよ、もう! | |
| ……というわけで、燻製用の小屋がサウナの原型という説が有力なようだ | |
| 風を読みきる……俺様ならできるはず! | |
| ふうん……どっちにしろ北方の文化だったんだよな。それがグリンウッド全土に広がったんだろう? | |
| 改めて言われると不思議だな | |
| エドナちゃんはパス! 三千年後くらいにまたな | |
| 昔は大陸全体が寒かったから……とか? | |
| 熱気を駆け抜けて……届け! | |
| ありうるのか? そんなことが | |
| あっ! ヴァーグラン森林の切り株! | |
| デゼルが言ってたな! 気候が冷え込んだか日差しが弱かった時代があったって | |
| あつっ! 風が弾かれた!? ライラの炎か……! | |
| 思わぬものが繋がったね | |
| 新しい歴史が証明できるかもしれない | |
| ふう…… | |
| 熱いな | |
| 熱いね | |
| 熱いぜ |
| うるさいわね。男サウナ | |
| どうせスレイとミクリオが、サウナの歴史とかで盛り上がってるんでしょ | |
| 『なぜサウナが大陸中に広がったんだろう?』とかですね | |
| そうそう | |
| そして、けしからんマネをしてる他一名 | |
| 大丈夫です。怪しい風は燃やしておきましたから | |
| ヤボだよねえ。もっと落ち着いてこのアツアツ天国を楽しめばいいのに | |
| はい。身も心も浄化されるよう…… | |
| この気持ちよさに気付けないなんて、ホント男って―― | |
| 子どもよね | |
| ガキよね | |
| 子どもですよね |