なあ、かめにんって本当に天族じゃないのかな? | |
わからない。『かめにんは、かめにんっすよ!』と言っていたが | |
カメ憑魔でもないよな | |
憑魔があんなだったら苦労しないよ | |
じゃあ、やっぱり天族だろ | |
人間の可能性もある。かめ『にん』というくらいだからな | |
つまり……天族なら、かめ『てん』と名乗るはず? | |
う……そこまではわからないが | |
でもさ。考えてみたら、この世には人と天族しかいないって、決まってるわけじゃないよな | |
つまり『かめにんはかめにん説』は成立し得るということか | |
わからないけど、そうだったら面白い! | |
確かに。旅に出た甲斐もあるね |
やっ! はあっ! | |
精が出ますわね | |
あっ! 夜半にお騒がせして申し訳ありません! | |
いえ。頼もしいですわ | |
正直負けそうだよ | |
お姫様は舞踏会で踊ったり、お菓子を食べたりというイメージだったけど、全然違ったよ | |
いえ……普通の姫は、そのように暮らしています。でも、私はそれができないのです…… | |
舞踏会やサロンでも改革の話をするので、煙たがられてしまって | |
目の前にある大事な問題なのに…… | |
アリーシャさん…… | |
そのストレスをこうして発散しているのです! おかげで槍の腕は、ずいぶん上がりました | |
とはいえ、深夜の稽古はご迷惑ですね。もう寝ることにします。では | |
国を思う気持ちは理想のお姫様だね。けど―― | |
かなり無理をされているようですわ | |
ああ。心配だね…… |
『マオクス=アメッカ』……それが私の真名か | |
それにしても、スレイは古代語を扱えるのだな。都でも使えるのは学者くらいなのに | |
遺跡の碑文とかを調べるために覚えたんだ。独学だし、まだまだだけどね | |
私の真名の意味を教えてもらってもいいだろうか? ……問題がなければ | |
問題? | |
いや……『無鉄砲姫』とか『おてんばアリーシャ』などという意味なら聞かない方がいいかと…… | |
あはは! 違うよ | |
『マオクス=アメッカ』は『笑顔のアリーシャ』って意味 | |
『笑顔のアリーシャ』……? | |
ナイフを返した時、すごく嬉しそうに笑っただろ? また、あんな笑顔を見たいなって思ったんだ | |
アリーシャの夢を叶えて、ね | |
……問題あった? | |
い、いや。少し驚いただけだ | |
真顔でそんなことを言われたのは初めてだから…… | |
ふふ、言えちゃう人なのですね。スレイさんは | |
そのようですね | |
オレ、変なこと言ったかなあ? | |
ありがとう、スレイ。君がつけてくれた真名、大切にするよ |
地の主か…… | |
ライラがなるってわけにはいかないのか? 聖剣を器にしてさ | |
可能でしたが……もうあの聖剣は、スレイさんの一部になってしまいましたわ | |
それに…… | |
それに? | |
私にはこの街の人に祀られる資格などないのです | |
地の主になりこの土地と結びつく事よりも、旅に出ることを望み、穢れを放置し続けましたから | |
………… | |
ライラって、どれくらいあの聖剣に宿ってたの? | |
もう……十年以上になります | |
そんなに長い間導師を待ってたんだね | |
世界の人たちのために | |
スレイさん…… | |
始まったばかりだよ。導師の旅は | |
はい! これからですわね |
アリーシャ、あのさ―― | |
あ……! | |
ごめん! 着替え中だと思わなくて | |
ふふ、いいよ。鎧の手入れをしていただけだから | |
けど、無神経だったね。女性の部屋に | |
では、正式にお招きしよう。どうぞ、スレイ | |
お邪魔します | |
それで御用は? | |
いや、戦いのペースは大丈夫かなって。きつかったら言って | |
私なら問題ないよ。槍と鎧の手入れもこの通りだ | |
前から聞こうと思ってたんだけど、アリーシャの鎧って変わってるよね? | |
ふふ、この透明な部分だろう? これはディフダ家に代々伝わる鎧なんだ | |
今は末席だが、先祖には武名を馳せた勇者がいてね | |
その方は、見たものを黒水晶に変える魔物を討ち果たしたと伝えられている | |
黒い水晶に変える……あっ! | |
そう。これはその方の物と伝わる鎧だ | |
一部しか残っていないし、伝説の話だが、興味があるなら手にとって見てみるか? | |
うん! | |
思ったより透けてる! こんな風になってたのかぁ! | |
アリーシャさん、お食事の支度が―― | |
お取り込み中のようですね…… | |
違います、ライラ様! 今のは!? | |
ノックはマナーだね…… |
『アタック』って変な名前だと思ったが、装備品のスキルと同じ名前なのか | |
気付いてしまったのね…… | |
え? まさか聞いちゃいけなかったのか? | |
手短に説明してあげる。装備品に与えられるスキルは地の主の恩恵による、いわば神の采配 | |
霊力と属性の微妙な配列によって、50のプライマリィ・エレメントが発見されているわ | |
その50のエレメントを組み合わせることで新たな効果が生まれ、さらにそれを何十億と掛け合わせ…… | |
人や天族も構成されているのよ | |
それは興味深いな…… | |
そう。より純粋で、不純物の少ないエレメントで構成された、それが…… | |
ノルミンということか……! | |
宝石とかに加工される原石ってわけだけど | |
おい! | |
それぞれの原石を研究するため、50人の精鋭が集められたわ。それが…… | |
ノルミンということか……! | |
たった一名の遅刻常習者によって、プロジェクトは瓦解の危機を迎えるの | |
ノルミン出てこないじゃないか! | |
ノルミンが出てくるのは第23章からよ。せっかちね | |
え? まさか聞いちゃいけなかったのか…… |
『ウィクエク=ウィク』…… | |
ねえ、スレイ。あたしの真名って、どういう意味? | |
ああ。『ロゼはロゼ』って意味 | |
『ロゼはロゼ』……なんか手抜きっぽくない? | |
そう? ぱっと思いついたんだけど結構あってない? | |
あの時は緊急事態でしたから | |
う〜ん……アリーシャ姫も従士だったんだよね? なんて真名つけたの? | |
『マオクス=アメッカ』。意味は『笑顔のアリーシャ』だ | |
……わかった。手抜きじゃなくて、ひいきですね? | |
えっ!? なんで? | |
あたしの笑顔だって、なかなかのもんなのに | |
ちょっ、ロゼ! 雰囲気怖いよ! | |
ロゼさん。スレイさんは素でこう言う方なので…… | |
わかってる。スレイこそ『スレイはスレイ』だよね |
ねえ、エドナ | |
なに? | |
エドナのブーツってさ、なんかブカブカじゃない? | |
文句ある? | |
全然。ただ、歩きにくくないかなって | |
……元は、お兄ちゃんのだからよ | |
ワタシの足に合うように調整してあるから、気にしないで | |
じゃあ、そのグローブも? | |
お揃いだけど。それが? | |
ワンピースと似合ってるよね。ちょっと変わってるけど | |
……お兄ちゃんもそういってくれたわ | |
え? | |
別に。あなたには似合わないって言ったのよ | |
あはは。それはそうだ | |
……変なヤツ |
あの、ロゼさん―― | |
ひいいっ! | |
あっ! 失礼しました! | |
これで | |
い、いいよ | |
で、なに? | |
戦場でのお礼をいいたくて | |
スレイさんを救ってくださって、ありがとうございました | |
気にしなくていいって。とっさにやっただけだし | |
いいえ、あの勇気と気迫には感動しましたわ | |
そ、そう? | |
おい | |
ひううっ! 姿を見せろってばっ! | |
でっ! なに? | |
いや……おだてられて無茶をするなと…… | |
……驚かせて、すまん | |
わかればよし! | |
思わず謝ってしまった | |
あの時以上の気迫でしたわね |
………… | |
……なんか用? | |
おい | |
ロゼ | |
知っている | |
じゃあ、名前呼んで | |
ロゼ | |
はいはい。なんでしょう? | |
ああいうマネはよせ | |
どういうマネよ? | |
……導師の背におぶわれていただろう | |
ちょ! 見てたの!? | |
たまたまな | |
うう……そういうのが怖いんだよなあ、天族って! | |
体を預けるなど無防備すぎる | |
それで油断させて殲滅って作戦じゃん | |
……年頃の娘のすることじゃないだろう | |
殲滅が? | |
背負われることがだ! | |
年頃の娘は背負われるのまずいんだ? | |
無防備なのがだ! | |
だからそういう作戦って言ってんじゃん! | |
もういい…… | |
? わけがわからん…… |
あたしが聞いた昔話の中に、天族と憑魔がいるような気がするんだよね | |
へぇ。どんな昔話? | |
あのね、やさしいおじさんと意地悪なおばさんがいて | |
飼ってた小鳥の舌をおばさんが切っちゃうんだよ | |
残酷なことをするな…… | |
でね、おじさんが逃げた小鳥の宿へ行くと、宝箱をもらってくるの | |
おばさんが宿へ行くと、恐ろしいものが入った宝箱を貰うの | |
でも、そもそも小鳥の舌を切るなんて事ができるのかい? | |
それを言うなら、小鳥が宝箱を用意したってとこもおかしいよ | |
小鳥の宿っていうのも、巣のまちがいじゃ…… | |
ちょっと! 話の趣旨がちがーう! |
最近、犬に吠えられなくなった気がする | |
原因はあれよ | |
デゼル? 犬が……懐いている? | |
…どうした、何か用か | |
いや、意外だな、犬は平気なのか? | |
平気も何も、彼らは物言わぬ相棒だろう。お前の歩み寄りが足りないんじゃないのか? | |
いやいや、吠えるだろ、犬…… | |
吠えるのはお前の持つ不安を感じ、その不安の正体がわからないからだ | |
早い話、先にビビるからよ | |
僕としては吠えたのが先と主張したいんだが…… |
…… | |
ライラ、まだ起きてるの? へー、ライラが髪をおろしてるの初めて見たかも | |
戦うときには邪魔にならないようにしておきませんとね | |
まあ、あたしは面倒だからパスパス切っちゃうけどね | |
ロゼさんの髪型もステキですわよ | |
そう?……その長さになるのにどのくらいかかったの? | |
そう言われますと……短かった時を覚えていないかもですね | |
昔過ぎて忘れちゃったってこと? 長生きだもんねー | |
ですわね……長く生きていると、おとといの夕食が何であったかも、時に忘れてしまいますわ | |
そのへんは人間でも忘れるけどね | |
生まれた時の最初の一言なども、今となっては全く覚えていませんし…… | |
そのへんは人間でも忘れるけどね |
ふわぁ〜……今日も暑いよねぇ…… | |
そうですわね。日に焼けてしまいそうです……エドナさん、その傘は日よけ用ですの? | |
見た通りよ | |
天族も日焼けするんだ? エドナ、肌白いもんね〜。納得 | |
エドナさんの傘は日よけにもなり、雨よけにもなり、憑魔まで退けてしまいますものね | |
そっか。エドナの傘は一石三鳥だね | |
いいえ! エドナさんのトレードマークにもなっていますから、一石四鳥です | |
それを言うなら、お気に入りのマスコットも付けられるし、一石五鳥でしょ | |
ではでは、その日の気分によって変えられるアイテムですから一石…… | |
カサねるわね。カサだけに | |
上手いこと言われてしまいましたわ〜! | |
これで一石何鳥かしらね? |
『巨魁の腕』か……くやしいが、さすがは地の天族といったところか…… | |
…… | |
エドナ? | |
あひゃぁ!! | |
……『巨魁の腕』を使った後は、全身が筋肉痛地獄になるんだから、触らないでくれる? | |
そ、そうなのか…… | |
見た目通り華奢なアタシは、本来傘より重いものは持てない | |
守ってあげたくなるNO.1の淑女なのよ? | |
それは別にどうでもいいが、やはり大きな力にはそれなりの代償があるってことなのか…… | |
気を使われても困るから、スレイには言うんじゃないわよ | |
そうかもな | |
あとさっきの話は、力を使ってないときは好きに触っていいって意味じゃないわよ | |
知ってるよ |
…そうか | |
増えてるぞ、犬…… | |
デゼルに犬望があるんじゃない? | |
…それはいかんな | |
会話してるぞ、犬と…… | |
あたしらも普通の人から見れば似たようなもんでしょ | |
犬と一緒にするなよ | |
犬は同じだと思ってんぞ。……いい意味でな | |
犬って大人だねえ | |
なら僕も大人ってことにしといてくれ…… |
ライラ、エドナ、これ見て! ジャーン! | |
これは、絵? ポスターですか? | |
というか、ビラね | |
『天族のファッション界に新風を! セキレイ印のニュートレンドここに発進!』? | |
なにこれ? | |
天族に向けた新しいビジネスだよ! | |
ご飯は要らなくても服はいるでしょ! | |
誰も手をつけてない、独占市場! これはクル〜! | |
天族は服に困ってないと思うけど | |
私も今の格好気に入ってますし…… | |
そんなだから時代遅れな格好なんだよ | |
時代……遅れ…… | |
……余計なお世話なんですけど | |
だめだめ! 女の子がおしゃれを忘れたら行き遅れるよ! 天族でも人間でも! | |
はう! | |
……ならどんな服を用意してくれるわけ? | |
それを考えるのは二人の仕事! 天族のトレンドなんてあたし知らないし! | |
………… | |
あれ? 乗り気じゃない? | |
……いきなり破綻してるもの。ねぇ? ライラ | |
時代……遅れ…… | |
行き遅れ | |
ううう〜!! | |
ロゼ、どうしてくれるのよ。これ | |
ええ〜? あたし? |
デゼル……聞きにくいんだが…… | |
俺の目のことか? ふん、別に隠していたわけじゃない | |
それは仇がやったのか? | |
そうだ。ヤツのせいでこうなった | |
だからデゼルさんは復讐を―― | |
言ったはずだぞ。俺の目的は友を殺し、風の傭兵団を潰した仇への復讐だと | |
自分のことじゃないと? | |
この傷は、むしろ感謝しているくらいだ。おかげで風を読む力が格段にあがったからな | |
今の俺は、お前たちよりよほど広く周囲の気配を捕らえることができる | |
おそらく、誓約と同じ効果が生まれているのでしょうね | |
つまり、心配も同情も無用ということだ。安心して俺の力を利用しろ | |
フォートンの時のようにな | |
その代わり僕らの力も利用するから……か | |
それも言ったはずだな。最初に | |
……ああ。そうだったな |
デゼル、聞いていい? | |
なにをだ | |
友達がいるかどうか | |
……相手が傷付く質問だな | |
ごめん。そういうつもりはないんだけど | |
わかっている | |
俺にも親友はいる。ラファーガという風の天族だ | |
やけに面倒見のいい奴でな。一緒に旅をした間、ずいぶん兄貴風を吹かされたもんさ | |
さすが風の天族 | |
ふふ……心配だったんだろうな。危なっかしい若造の俺が | |
そっか。よかった | |
よかった? | |
うん。デゼルが一人じゃなくて | |
あたしも心配だったんだ。なんとなく | |
いらん心配だ | |
そ。いらなくてよかった | |
……だから討つのさ。あいつの仇を |
導師の修行と、マオテラス捜索。一石二鳥になったね | |
もっとだよ。五大神の遺跡を探検できるんだから | |
ったくー、遺跡オタクー | |
こういうのは楽しまなきゃ! | |
命懸けかもしれませんが…… | |
それはね。冒険だから | |
だね | |
あたしは油断なく行くけどね | |
お供しますわ。どこまでも |